頚椎後縦靭帯骨化症

頸椎を支えている後縦靭帯が骨になる病気で、遺伝的に日本人に多くみらます。靭帯が骨化すること自体が問題になることは少ないのですが、骨化した靭帯が脊 髄を圧迫することで、手足にさまざまな神経症状を現すようになります。 現在のところ、靭帯が骨化する機序についての詳細は不明です。

原因
脊柱は椎骨が積み重なってできていますが、それらの椎骨をつないで支えている組織のひとつに靭帯があります。この靭帯には、椎骨の前側にある「前縦(ぜんじゅう)靭帯」と後側にある「後縦靭帯」があります。
後縦靭帯は脊柱管に面しているので、従来軟らかい組織が骨化して硬く大きくなると、脊柱管内にある脊髄を圧迫してさまざまな神経症状を現します。
手足のしびれや痛みで発症することが多く、また、手指の運動がうまくできなくなり、箸が持ちにくい、ボタンが掛けにくい、字が書きにくいなどといった症状 が出てきます。脚では「痙性(けいせい)歩行」といって、脚が突っ張って歩きにくくなります。さらに症状が進むと、排便・排尿障害も起こることがありま す。
脊椎の骨化する程度によって、それぞれ腰椎後縦靭帯骨化症、胸椎後縦靭帯骨化症、頚椎後縦靭帯骨化症と呼ばれます。一方、脊髄の後方に存在し、脊椎椎弓間 を連結している靭帯は黄色靭帯といい、これが骨化すると黄色靭帯骨化症といいます。黄色靭帯骨化症は、脊髄麻痺を生じる疾患であり、胸椎部に好発します。 何が原因で後縦靱帯骨化症になるのかは、多方面にわたって研究されていますが、はっきりした原因は不明なようです。後縦靱帯骨化症になる人の比率は男性と 女性では2:1で男性が多く、発症する年齢は40歳以上がほとんどです。
後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)が頚椎に起こると、初発症状として首筋や肩胛骨周辺に痛みやしびれ、また、手の指先にしびれを感じるよ うになります。上肢の痛みやしびれの範囲が次第に拡がり、手指の運動障害のため両手の細かい作業が困難となります。また、下肢のしびれや知覚障害、足が動 かない等の運動障害が出現してきます。進行すると下肢のしびれ、痛み、筋力低下、上・下肢の腱反射異常、病的反射、知覚鈍麻などが出現し、痙性麻痺を呈し ます。脊髄麻痺は四肢に対称的に出現することが多く、前横断脊髄麻痺となれば、頻尿、開始遅延、残尿感、便秘など膀胱直腸障害も出てきます。後縦靱帯骨化 症の症状が重くなってくると排尿や排便の障害などで日常生活に介助を必要とする状態にもなります。後縦靱帯骨化症の初発症状は上肢のしびれや痛みを症状と するものが約40%、項頸部のこりや痛みを訴えるもの約34%、下肢のしびれや痛みを症状とするもの約16%、下肢の運動障害が約13%だそうです。後縦 靱帯骨化症は慢性進行性のかたちをとるものが多いようで、良くなったり悪くなったりしながら長い経過をたどり、神経障害が次第に強くなってきます。

治療法…保存治療には、頸部の安静のために頸椎カラーを装用します。薬 物療法では、痛みに対しては非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩(しかん)薬を用います。温熱療法や牽引(けんいん)療法も用いられます。約3カ月治療をし ても症状が改善しない場合は、手術療法を考えます。
すでに脊髄障害により歩けなかったり、排尿・排便障害がある場合は、早めに手術するほうがよいですが、靭帯骨化があるだけで著しい症状がない場合は、経過を観察するだけでよいこともあります。
手術療法では、頸部の前から手術する方法と、頸部の後方から手術する方法があります。前からの方法は、「頸椎前方徐圧固定術」といい、脊髄の圧迫されてい る箇所が少ない場合に行われます。この際には骨移植が必要になり、通常は腸骨(骨盤の骨でベルトのかかる部分)から移植骨をとります。後ろからの方法は、 脊髄圧迫箇所が多い場合に用いるもので、主に「椎弓(ついきゅう)形成術」が用いられます。
後縦靭帯骨化症の治療には手術療法と保存的治療があります。まず頚椎の安静保持を保つため、保存的療法では頚椎の外固定装具を寝ている時以外に装着しま す。頚椎はこの時快適な位置にないといけません。装具は高さの調節ができるものがよいようです。入院して、持続的に頚椎を牽引する場合もあります。入院管 理の下に持続牽引する期間は約一ヶ月くらいです。牽引療法の効果は、胸椎や腰椎では頚椎よりも少ない傾向にあります。そのほか、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤等に よる薬物療法で自覚症状の軽減が得られることがあります。症状が進行し始めると保存的治療の効果は期待できなくなるため手術治療します。これには前方手術 と後方手術があり、背骨が丸くなっている胸椎では前方進入法が選ばれ、腰椎では後方進入法がよく選ばれます。前方進入法は神経の圧迫を取るため骨化部位を 摘出し、その部位を自分の骨で固定します。後方進入法では骨化部位はそのままにして神経の入った脊柱管を拡げます。